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すべての人々が安心快適に使用できる支援技術の実現化調査専門委員会

次世代の人間中心社会を見据え,ロボット工学,IT,人間工学,心理学など多様な分野の知見を効果的に融合することにより,被支援者や人間共存環境に居合わせる第三者に違和感なく溶け込みながら人間活動を支援する技術の在り方とその実現化に関する研究を調査します。

研究会のお知らせ

2020-02-11
次世代産業システム研究会(2020年3月7日(土) 関西学院大学 大阪梅田キャンパス1405教室
 〔研究会名〕次世代産業システム研究会
 〔開催日〕2020/03/07
 〔テーマ〕人と調和する支援技術に関する研究
 〔プログラム〕こちらをクリックしてください

2020-02-11
次世代産業システム研究会(2020年3月18日(水) 東海大学 高輪キャンパス
 〔研究会名〕次世代産業システム研究会
 〔開催日〕2020/03/18
 〔テーマ〕安心快適に使用できる支援技術
 〔プログラム〕こちらをクリックしてください

2019-09-03
次世代産業システム研究会(2019年9月3日(火) 関西学院大学 大阪梅田キャンパス1405教室
 〔研究会名〕次世代産業システム研究会
 〔開催日〕2019/09/03
 〔テーマ〕人と調和する支援技術に関する研究
 〔プログラム〕こちらをクリックしてください

2019-08-21
【8/20-8/22開催 2019年産業応用部門大会(長崎大会)
人間支援委員会(略)主催の
シンポジウム(S12: 人間活動/運動のモデリングとその活用例)が開催されます
場所:長崎大学 文教キャンパス (長崎市文教町1-14) 日時:8月21日13:20〜16:45

目的

 近年,マンマシンインターフェースやユーザビリティの思想が浸透し,機能やコストパフォーマンス重視の設計製造の思想から,サスティナブル(持続可能社会)や人間共存環境構築の思想へ移行しつつある。これは物理的利益による生活の豊かさとは異なり,心理的かつ精神的豊かさの欲求の現れとも言える。特に,社会に抱擁された使用者が受ける支援活動および周囲の環境や第三者の視点も重要であることを確認している。その一方で,上記の思想を常に遂行することは難しく,これらの支援技術も未だに発展途上の段階であるとも言える。本来であれば,個人により異なる様々な背景・能力・心理などを個人に適する形で応え,個人や周囲の人間の状態を類推してサービスを提供するような技術が必要であるが,現状では,AIの予想を超えた処理行動,自動車の自動運転による死亡事故など,人間を支援する技術が人間を不快や不安にさせる事例が多発している。 本委員会では前身の「人と調和する支援技術の実現化協同研究委員会」に引き続き,情報工学,ロボット工学,生活科学,生体医用工学,リハビリテーション学,心理学など多様な分野の知見を効果的に融合することにより,すべての人々が個々に安心・快適かつ容易に利用でき,なおかつ周囲の他者の生活と環境に違和感なく順応できる支援技術の在り方とその実現化に関する調査・研究を実施する。

調査期間:2018年08月〜2021年07月(3年間)
委員長:横田 祥(東洋大学)
幹 事:中後 大輔(関西学院大学)
幹 事:村松 聡(東海大学)


背景および内外機関における調査活動

 我が国において,人々の生活を便利にするための機器・システムは,日々,数多く発表されているが,これらは技術的視点のみに立脚した設計が多く,個人の社会生活,周囲の環境や人間関係に適応させることが考慮されていない。近年では,そのため,使用者の人間としての尊厳を保ったままでの生活の質や,使用者周囲の第三者視点による豊かな活動を支援することが十分に達成されないことが多い。そこで,前身の「人と調和する支援技術の実現化協同研究委員会」では,高齢者活動支援および知的生産活動支援の重要性に着目し,これらの支援技術の在り方および実現化に関する調査・研究を実施することにより,物理的利益による生活の豊かさとは異なる心理的かつ精神的豊かさの享受が必要であることを明らかにした。
 高齢者活動支援において,高齢者の日常生活活動に関する報告((社)人間生活工学研究センター)では,日常生活において最低限必要な活動(買い物,掃除など)の中には心理的・体力的負荷のかかるものがあると指摘しており,これらの活動に対する支援が十分に受けられない現状がある。欧州では主に社会構造における人的支援がほとんどであり,米国では対象者の身体機能回復を目指すことに主眼が置かれていたため,支援技術が主体的となって人を支援するという思想は存在しなかった。その後,徐々に高齢者や身体障害者に対する支援技術は増加し,活動に対する支援の思想は定着しつつある。しかしながら,現在では高齢者・身体障害者のみを限定対象とした技術支援の思想ではなく,健全者,乳幼児,他文化,他人種など誰に対しても支援する技術が重要になってきた。例えば,UD(Universal Design)商品,誰でもトイレ,SegwayなどのPMV (Personal Mobility Vehicle)は,差別を回避する多様性社会の構築には必要不可欠な技術と言える。そのため,今後は“すべての人々”を対象にした活動支援技術を目指す必要がある。
 知的生産活動において,斬新な発想力や設計力を高めるような知的活動では,個人の技量・能力に任せることが多い。そこで,機械学習やAIなどの情報技術を活用することにより活動を支援する動きが増加してきた。産業やサービス業などでは,相手の状態を先読みして,最適なサービスを提供する技術も確立しつつある。特に,産業界では,目先の経済活動に比重をおくため,知的活動を機械学習やAIなどの自動化を積極的に導入することにより,労働力や利益が確保できると期待している。しかしながら,これらの技術の依存は,異なる危険性が存在する。例えば,自動車の自動運転時の交通死亡事故やSNSのAI同士の会話などは,人間の予想外の事例であり,人間を支援するための技術が,人間に脅威と不安を与える技術になりかねない警告とも言える。そのためには,フェールセーフ機能設計や知的生産活動の失敗を許容するUDの仕組みや思想を取り入れる必要がある。
 以上より,人間活動の根本原理であると考えてきた高齢者活動支援および知的生産活動支援の実現化を元に,本委員会の前身の委員会では,生活の支援技術を実現するための新しい提案や技術開発が行われてきたが,多くの新たな課題も明らかになった。これらの課題の多くは、個々の技術や理論に起因するというよりは、その応用・融合の方法におけるものも存在する。そこで,本委員会では前身委員会の目的を拡張し,すべての人々の生活を豊かにするために,安心と快適な使用技術が必要であると考えている。すなわち,従来までの生産や利益中心,機械・システム・技術への依存から,人間の尊厳や豊かさを中心とした,人間や機械の失敗を許容する支援技術が必要である。


調査検討事項

本調査専門委員会では,前身の協同研究委員会で実施した使用者および周囲の第三者の観点からの豊かな活動を支援すること追究する支援技術を実現させることを目的とする。この目的に立脚して本研究委員会は,知的生産活動や日常生活活動など個々の支援に関する科学的分析とその本質を見極めるともに,その支援技術を使用することによる社会的なインパクトとすべての使用者に及ぼす影響を考慮しながら,使用者と周囲の環境に適する形でどのように支援を提供するかという,支援技術の設計から提供までのトータルなプロセスの在り方について調査を継続し,それらの産業応用事例を調査するとともに次世代産業システムの方向性を検討する。本委員会の活動は以下の3点である。

(1) 人間社会形成と支援に対する知的生産活動の影響を調査する研究

  • 知的活動に従事している科学者,技術者,技能者,工芸家,匠などの発想が,どのような社会的な背景と関わりの中から創出されているのか,および,その発想をものづくり,教育,社会支援にどのように具体化し,その結果が使用者コミュニティーにどのような影響を与えているかを調査する研究。
  • 知的活動の支援と,安全・安心日常活動支援のための機器やプラットフォームに関する研究において,使用者コミュニティーをいかに定義し,また,そのコミュニティーのニーズをいかに定式化しているのかを調査する研究。
(2) すべての人間が安心かつ快適に使用できる技術と科学の調査研究
  • “腹芸”,“いわずもがな”,“気配り”などの日本特有の比喩表現やオノマトペなどで意思伝達する日本人に適した形式で,人間を支援することを目的とされて製造されたロボットと人間との間でジェスチャーなどのノンバーバルコミュニケーション,生体コミュニケーションの研究動向を調査する研究。
  • 被介護者および介護者双方が安心かつ満足できる介護・リハビリテーションの在り方に関する調査研究,および,その成果の技術へのフィードバック法に関する検討。
  • 誰でもが安心して社会活動に参加できるための必須条件である生活管理として,ライフサイクル別栄養教育,健康科学技術などのテーマに関して,生活科学を基盤にしてIT,ロボティクス,生体情報などを融合することで使用者およびサービス提供者双方の性質に適合するテーラーメード生活管理技術の調査研究。
(3) 人間の尊厳や豊かさを支援する技術を啓蒙する活動の調査研究
  • 近年広まっている監視システムと安心感の相関性を,個人生活における事情とその個人が属する社会システムにおける事情の両面から調査研究。および,街中を移動するときの安心感を与える社会基盤・インフラの構成要素を,使用者の視点と周囲の環境および第三者の視点から検討する調査研究。


予想される効果

多様な技術者,理学・作業療法士,スポーツ運動学者・インストラクター,ボランティア団体などの連携を図って本調査研究を実施することにより,今後の日本にとって重要である人と調和したサービスを実現する支援技術のガイドラインを先駆的に作成し提言できるものと考える。具体的には,下記の効果を予想している。

(1) デザイン,絵画,作曲,執筆,工芸,演奏などの知的生産活動が,提供を与える側・受ける側の両者の視点から促進できれば,新たな産業や文化を創出することにつながる。
(2) 増加しつつあるシニア世代を対象にすることにより,高品質な支援サービスによって生活の質を向上させながらリタイア後の社会参加を活発にさせる方策を見いだすことが可能となる。さらに,その効果から,高齢者のみでなく,乳幼児,障害者,妊婦,旅行外国人および滞在外国人などのすべての人々に対して真に優しいユニバーサルな支援技術の提案ができる。
(3) 社会が要望している,社会との関わりの中で,真に人が幸せを実感が出来るためのサービス提供技術の具現化は,ITインフラ,ロボティクス,生活科学,スポーツ工学,映像メディアなどの機器に新たな設計思想を注入することができ,産業社会に貢献できる。


過去の活動報告
人と調和する支援技術の実現化協同研究委員会(2015.05−2017.04)