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停電について

1.停電とは何か
 停電とは、望んでいないのに電気の供給が止まってしまうことです。
 家庭でテレビゲームをしている時に、誰かが電源コードに足を引っ掛けてコードを外してしまい、折角のゲームがダメになってしまったことはありませんか。また、エアコンをかけながら、炊飯器と電子レンジを使っていたら、ブレーカーが飛んで家中が真っ暗になったことはありませんか。ブレーカーが飛んだのは、その家に流すことができる値以上の電流が流れたため、住宅内の配線が過熱して事故を起こさないように保護システムが働いたためです。これは、家庭内の停電ということができます。
 電力会社の電力系統でも同じようなことが発生します。2006年8月14日の朝、東京の江東区で、川を航行していたクレーン船の先が送電線に接触し送電線が切れて、その送電線で電力を供給していた地域が長時間停電したことがあります。これは丁度、家庭でゲーム機のコードを外してしまったような事故と考えることができます。
 もうひとつの例として、送電線が切れなくても停電になってしまった場合を説明します。1987年7月23日の昼休み時間を過ぎたころ、首都圏の電力の消費量(電力需要
と言います)が急速に上昇し、発電所の電力は足りていたのですが、電力系統で送れる能力を越えた状態になって、変電所が次々に停止し、首都圏が広範囲に停電になってしまったことがあります。これは、規模は大きく現象は複雑ですが、簡単に言えば家庭のブレーカーが飛んだことと同じです。
 電気は貯めておけませんから、時々刻々変化する電力需要に応じるだけの発電能力があること、そして発電した電力を需要家の元まで送り届ける能力があることが必要です。どちらの能力が不足しても、停電が起きることになります。そしてそのような事態を引き起こさないように、電力事業者も技術者もさまざまな努力を積み重ねていますが、残念ながら東日本大震災に際しては、たいへん大きな範囲で停電が起きてしまいました。

2.電力系統の停電
 私たちの生活にとって、電気はなくてはなりません。いつでも、どこでも、使いたいだけの電気を使いたい。日本の経営者、技術者はそれを可能にしてきました。日本は世界の諸国と比べて、停電が極めて少ない国になりました。このたび残念ながら、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故で、多くの地域で停電しました。しかしその前の停電はいつだったでしょうか。
 電気は、誰かが使いたいそのときに、その分だけ起こして、使いたいその人のところまで送るから、使えます。ですから、電気を起せなくなると、停電します。また少し難しい話になりますが、電気を送れなくなったときにも、停電します。
 停電がどのようなときに起きるのかを、説明しようと思います。そのためにまず、電気を起こすこと、起こした電気を送ることとはどのようなことなのかを、理解していただく必要があります。図を見てください。図の全体が電力システムです。電気は発電所で作ります。もちろん、家庭の屋根に太陽光発電設備を作っても、広い空地で太陽光発電とか風力発電を行っても電気を作ることはできますが、現在日本の発電総量に占めるそれらの割合は1%程度で、ほとんどは火力、原子力、水力の大規模な発電所で作っていますので、図の発電所は大規模発電所をイメージしています。発電所で作られた電気は変電所、送電線、配電線を介して、消費地に送られます。電力システムの中で、電気を送り、配る部分を電力系統と呼ぶことがあります。送る部分だけは送電系統、配る部分だけは配電系統です。それらについても詳しく説明したいのですが、本稿は停電についての説明ですので、別稿にゆずります。
 停電はなぜ起きるのか、それは電力システムの中に異常が起きるからです。それでは、どのような異常が起きるのでしょうか。一番多い原因は雷です。図の送電線とか配電線などが落雷でやられると、停電が起きます。もちろん、落雷があっても停電しないように、さまざまな工夫がしてあります。それはとても興味深い技術です。一つだけ例を紹介しましょう。図のどこかの送電線に雷が落ちたとしましょう。送電線の両端は発電所や変電所で、そこにしゃ断器(■)がありますね。送電線を切る(しゃ断する)設備です。変電所で送電線を監視して、落雷があったことをいち早く見つけ、自動的に瞬時に(専門的になりますが、超高圧送電線だと70ミリ秒くらいの時間で)しゃ断器により送電線を一時的に切ります。そして落雷の影響が無くなったら、またしゃ断器を入れて、電気を送り続けます。(ちなみに電車の踏み切りにあるのはしゃ断機で、変電所等にあるのはしゃ断器です。全く異なるものです。)
 異常は雷以外の原因でも起きます。例えば、台風のために送電線の鉄塔が倒れてしまうとか、飛行機とか船が送電線を切ってしまうとか、発電所や変電所の設備に事故が起きるなどです。そして、どのような異常であろうと、電気の消費地で使いたい電力(消費電力と言います)に見合う量を発電所で起せなくなったり(発電電力が不足したり)、送電線や配電線で送りきれなくなると、停電が起きます。
 東日本大震災の後、東京電力は計画停電を実施しました。大震災のため、福島第一原子力発電所だけでなく、多くの大規模な発電所が運転できなくなりました。翌日の消費電力がどのようになるかは過去の統計とか天気予報で、かなり正確に予測できます。当時、発電電力の不足のため、その状態を放置すれば、非常に広い範囲で停電が起きることが予想されました。そのために、発電できる電力に合うように、一部の消費地を計画的に停電させました。図で言えば、一部のしゃ断器を人為的に切って、消費電力を抑えました。それが計画停電です。
 

3.過去の大規模停電事
 
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