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1.エネルギー・電気・電力 「エネルギー」「電気」「電力」という言葉が使われていますが、正しく使い、理解するために、その意味をもう一度考えてみましょう。
ものを動かしたり、変化させたりするために使われる、おおもととなるのが「エネルギー」です。エネルギーがつく言葉はたくさんあります。化石エネルギー、自然エネルギー、核エネルギーなどは、人間が作り出せないエネルギーの例です。このほかに、運動エネルギー、位置のエネルギー、光エネルギー、熱エネルギー、化学エネルギー、電気エネルギーなど、さまざまなエネルギーがあります。資源・エネルギー問題とは、物質資源と石油・天然ガスなどの化石エネルギーの枯渇や利用可能な量に関する課題を表しています。
「電気」という言葉は、広い意味に使われていますが、ここでは、電気エネルギーに関するものを「電気」として表現することにします。
「電力」は厳密にいうと、一秒間あたりに作られたり、使われたりする電気エネルギーの量を示します。その単位は、ワット (W) です。同じ量の電気エネルギーであっても、これを瞬時に使うときは大きな電力となり、ゆっくりと時間をかけて使うときには小さな電力となります。どれだけの電気を使ったのかを測るメータが、各家庭にとりつけられています。このメータは電力量計と呼ばれ、電気を1時間にわたって使った量を基準として測っています。その単位は、ワット時 (Wh) となっています。「発電機が作る電気」でも、「発電機が作る電力」としても間違いではありません。
2.電気を作る
[直流と交流の電気]
電気には直流と交流があります。電気で動くものを使うときには、電池あるいは電力会社などからの電気が必要です。電気にはプラスとマイナスの極性があります。この極性が変化しないのが、乾電池や充電式電池などの直流の電気です。なお、電気器具に電池を入れるときには、その極性に注意しなければなりません。電池では化学反応によって電気が作られます。電気がそのまま蓄えられているわけではありません。
電力会社などから送られてくる電気は交流です。交流の電気は、プラスとマイナスの極性が時間的に交互に変わります。その極性は1秒間に、東日本では50回、西日本では60回それぞれ変化しています。交流の電気は発電所にある発電機で作られ、送電線を使って家庭やオフィスなどに送られてきます。
直流では、電圧の大きさを自由に変えることは、損失が生じることを覚悟しないと困難です。一方で、交流では変圧器(トランス)を使えば、わずかな損失で電圧を自由に変えることができます。これが交流の大きな利点です。また、インバータを使うと直流から交流に変えることが可能です。
[発電機で電気を作る]
回転する電磁石の周りにコイルを配置しておくと、このコイルに電圧が発生します。発生する電圧は、電磁石が近づいたり離れたりすることにともなって、極性と電圧の大きさが時間的に変化します。この原理を使っているのが交流発電機で、交流の電気を発生できます。
発電機を回転させるには、主に、水の力、蒸気の力、高温ガスの力を利用します。水力発電では、高い位置から勢いよく流出させた水の力で水車を回転させています。火力発電や原子力発電では、蒸気タービンと呼ばれる羽根車に、圧力と温度が高い蒸気を通して回転させています。この蒸気は、火力発電では石油や天然ガス燃料を燃やした熱を、また原子力発電では核分裂反応により原子炉で発生した熱を、それぞれ使って発生させます。蒸気は冷却し、ふたたび水にもどして、繰り返し使います。また、燃料を燃焼させて発生した高温のガス流を使い、ジェットエンジンに使われているものと同じガスタービンと呼ばれる羽根車を回転させる方法もあります。
なお、たくさんの発電機をつないで同時に運転するには、それらが作る交流電気が同じ周波数でなければならず、そのために、発電機は常に決められた一定の速度で回転していなければなりません。
以上のほかに、太陽光発電や風力発電などでも電気が作られています。
3.電気を送る [電気が電線を伝わる速さ]
発電所で作られた電気は、電線を使って私達のところまで送られてきます。この電線を送電線といいます。送られてくる電気は、光の速度に近い速さで電線を伝わってきます。このため、発電されるのとほぼ同時に電気を使うことになります。
電気を長い距離にわたって送る送電線には、電線が鉄塔で支えられている架空送電線と、電線を絶縁物で包んだ電力ケーブルがあり、電力ケーブルは主に地中送電線として使われます。架空送電線は大量の電気を遠方に送れますが、屋外の高い位置に電線が配置されているので、雷が落ちたりする事故がおこります。このような事故が起きても停電することなく電気が送られるように、保護のためのさまざまな設備が設置されています。電力ケーブルを地下に設置する地中送電線は鉄塔を使わず、空間を有効に利用できるので都会地域で使われています。
[電気を送るネットワーク]
送電線は、発電所と変電所、変電所と変電所の間を結びますが、ループ状や網目状に接続して、電気を送るためのネットワークを構成しています。ネットワークとなっていると、一つの送電線で電気を送ることができなくなった場合に、他の送電線を使って電気を送るように対応ができます。電気の使用状態に応じて送電線を切り替えたり、電圧を変化させたりする施設が変電所です。
発電機で作られる電気の電圧は、一万から二万ボルトですが、このままで電気を送ろうとすると損失が大きく、たくさんの電気を送るには不都合です。このため、発電機で作った電気は、変圧器を使って二十七万〜五十万ボルトという高い電圧にして送ります。住宅、学校、工場、ビルなど電気を使うところまでには、いくつかの変電所で電圧を段階的に下げて電気が送られてきます。
住宅や学校などへ電気を送る設備は配電線と呼ばれます。配電用変電所からの電気は、はじめは六千ボルトの高圧配電線を通り、電柱の上などに置かれた変圧器から、各家庭に百ボルトや二百ボルトの低圧配電線で届けられています。
4.電気は発電と使用とが同時で同じ量 電気は光に近い速度で伝わるので、発電と消費がほとんど同時に行われます。つまり、使うのと同じ量の電気をたえず発電し、両者がバランスしていなければなりません。
自転車で坂道を登ろうとするとき、足でペダルを強くこがないと速度が遅くなってしまいます。また、自動車で速度を低下させず一定にして坂道を登るためには、アクセルをよけいに踏む必要があります。同じように電気の使用量が増えると、発電機の負担が増えるので、その回転速度は低下してきます。そこで、発電機を一定速度で回転させるために、たとえば、火力発電では蒸気タービンに通す蒸気の量を増やして、回転速度が落ちないように調節しています。このとき、当然ですが蒸気を発生するために消費される燃料は増加します。逆に、電気の使用量が減ってくると、負担が軽くなるので、発電機の回転速度は増加してきます。このときも、回転速度を一定にするため、火力発電では蒸気の量を絞って回転速度が上がりすぎないように調節する必要があります。
ところが、発電機の回転速度を一定にする調節がうまくできなかった場合には、発電機は決められた回転速度で運転できなくなり、この発電機は電力ネットワークから切り離さなければなりません。このようなことが次々に起こると、すべての発電機が電力ネットワークから切り離され、一般家庭、工場、オフィスを問わず電力ネットワークのすべての電気がとまる大停電となります。電力ネットワークのすべての発電機で供給できる最大の電気の量を、電気の使用量が超えてしまうような場合には、このようなことが起こります。これを避けるため、電気の使用量が電力ネットワークで供給できる最大の電気の量を超えないように、必要な場合は節電が要請されます。
朝から夜までの一日においても、発電量と使用量をたえず同じにするため、使用量が少なくなる深夜は、発電量を減らし、社会や産業の活動が活発になり電気の利用が増える昼間は、電気をたくさん作らなければなりません。
5.電気を蓄える 送電線・配電線で送られてくる交流の電気は、発電と使用が同時でなければなりません。電気を自由に蓄えて利用できればよいのですが、電気のままで蓄えることは難しいのです。充電式の電池で動く携帯電話や電気自動車では、蓄えておいた電気を使っているようにみえますが、これはあらかじめ電気を化学エネルギーに変えて蓄えており、電気を使うときに、ふたたび電気エネルギーに戻しています。この場合も電気の発生と使用は同時です。
ニッケル・水素電池やリチウムイオン電池などの充電式の電池は蓄電池とも呼ばれます。この蓄電池は、現状では課題もいろいろあります。まず、電気をたくさん蓄えるために、その重量と空間的な大きさが増加します。たくさんの電気が蓄えられ、かつ小さく軽い蓄電池は応用を考える上で重要なため、その実現に向けて技術の開発が進められています。さらに、蓄電池は化学エネルギーを電気に変えなければならないため、瞬間的に大きな電気を供給するのが苦手です。これは自動車で使うときに不便なことがあります。蓄電池の電気は直流なので、交流の電気として使おうとするときには、直流から交流にするためのインバータと呼ばれる装置が必要です。蓄電池の価格は、まだ高いので気軽に大量に使うというわけにゆきません。
太陽光電池、風力発電のように発電量が時々刻々変化する電源が増えてくると、電気を蓄える技術が必要不可欠となってきます。各家庭に電気を蓄える装置が備えられるようになると、電気を利用する方法や考え方が大きく変わる可能性があります。
大規模に電気を蓄える方法として、次のものがあります。電気で大量の水を高いところの貯水池にくみ上げて、水の位置エネルギーとして蓄え、必要なときに水力発電をする方法があります。すなわち、夜に水をくみ上げて、昼に発電します。超電導コイルには電気エネルギーそのものを蓄えられますが、実用化はかなり先になりそうです。短時間であれば、発電機にはずみ車をとりつけて、回転運動の力学的エネルギーとして電気を蓄えたり、電気二重層コンデンサと呼ばれるものに電気エネルギーのままで蓄えたりすることができます。
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