本調査専門委員会において「標準系統モデル」を作成するにあたり,系統モデルの潮流計算や安定度(動特性)解析を行うプログラムが必要となった。
いくつかの大学,メーカーおよび研究機関がこの種の計算機プログラムを所有しているが,実際の電力系統の特性を模擬するために,電力各社間において系統データのやりとり,計算作業を行う必要があるため,我が国すべての電力会社の系統計画,系統運用の業務において実際に使用されており,大学,企業等にも公開されている電中研のY法を利用することとした。
以下に,本解析システムの概要について述べる。
電力系統の安定度には,地絡事故や電源脱落など大きなショックに対する安定度と,負荷の常時変動など小さなショックに対する安定度とがある。前者は過渡安定度と呼ばれ,ショックに伴う系統動揺が安定に収束するかどうかが問題となる。この現象は系統の非線形要素の影響が大きいことから,主として数値積分によるシミュレーション解析が用いられている。電中研で開発されたY法は,我が国における代表的なプログラムとなっている。
一方,後者は定態安定度と呼ばれ,これは系統の定常的な安定運用の可否を対象とする。この解析は上記Y法によっても可能であるが,今日では電中研で開発された「電力系統固有値解析プログラム(S法)」を用いたより効率的な解析が広く用いられている。
これらのプログラムは,今日,我が国における系統運用方針や送変電設備計画を策定する際の技術的検討に欠かせないものとなっている。また,各種の安定度向上対策や系統事故時の緊急制御方式の在り方などの検討手段としても活用されている。上述のY法,S法の機能の概要とY法とS法の比較を 表3.2,表3.3 にそれぞれ示す。
「標準系統モデル」を作成するにあたり,S法は検討ケースのスクリーニングおよびチェック等に用い,Y法により過渡安定度解析計算を行った。
各Y法モデルの詳細については 付録1 を, Y法の入力データについては 付録2 を参照されたい。
(1) 「電力系統の安定度」,電気協同研究,第34巻,第5号,昭和54年1月
(2) 「大規模電力系統の安定度総合解析システムの開発」,電力中央研究所 総合報告:T14,平成2年4月
(3)「電力中央研究所 電力系統安定度解析システム Y法・S法プログラム解説書」,(財)電力中央研究所 電力システム部,(株)電力計算センター狛江事業部