球状トカマク調査専門委員会

設置趣意書

プラズマ技術委員会

1. 目的

夢のエネルギーと言われて久しい核融合だが、その研究は着実に進歩している。現在の実験装置でも既に炉の必要条件のうち温度1億度、密度 10 20m-3 を越えるに到っている。 10 年後の完成を目指す国際トカマク実験炉( ITER )では、実際に D-T 燃料を用いた実験を行い、加熱入力の 10 倍以上の核融合パワーが得られるものと予想されている。次は発電炉だが、その実現に向けて新たな課題がクローズアップされてきた。例えば、連続運転、壁の損耗や放射化、そして経済性などである。

そこで注目されているのが球状トカマクである。理論上、プラズマを太くするだけで安定性が増し、低磁界でも高温高密度プラズマを閉じ込められる。磁界効率の指標としてβ(=プラズマ圧力/磁気圧力)を用いるが、英米の実験では、プラズマトーラスの小半径を主半径の 0.7 倍程度まで太らせ、β= 35 %を達成した。これは従来型トカマクの 5 倍であり、磁界のコストが 1/5 になることを意味する。ここまでプラズマが太ると、縦にも伸び、外形が球形になる。そこで従来型トカマクと区別するために、この新型トカマクを「球状トカマク」( Spherical Tokamak )、略して ST と呼んでいる。

軸対称性が良い ST では鳥籠のようだったトロイダルコイルの数が大幅に減り、メインテナンス性が向上するため、中性子で損傷した内壁の交換も簡単になる。またプラズマ圧力が高いため、圧力が駆動する自発電流だけで連続運転可能となる。その結果、装置や維持コストが格段に低下し核融合発電炉が経済的にも実現可能と期待される。

しかし、中心軸まわりのスペースが限られていることを理由に超電導化などの炉製作上の技術的困難さを指摘する意見も根強く、日本では本格的な実験装置が作られない。そのため先行する英米との技術的格差は広がる一方であり、このままでは将来禍根を残すと焦慮する声があがっている。

本研究調査専門委員会の目的は、実用炉実現にむけた諸課題が期待通りに解決できるか、懸念されている技術的困難を克服できるか、新たな問題は発生しないかを調査することである。さらには日本の ST 研究体制をいかに構築し、英米における急速な ST 研究の展開にどう対抗し、学術的な観点から次の飛躍のためには何をすべきかを明らかにする。

2. 内外の趨勢

ST はもともと日本で小規模な実験が行われていたが、高β性能が評価されて米国で再提案された。それを受けて英国で行われた START 実験により ST の優秀性が実証され、世界中で爆発的に研究機運が盛り上がった。現在世界では米国プリンストン大学の NSTX 、英国カラム研究所の MAST といった大加熱パワーを用いた本格的 ST 実験が精力的に行われている。さらに、プリンストン大学では ST による核融合炉の実証を目指して大型トカマクの建物・設備を利用した大型 ST 計画を提案している。

日本では磁界反転配位( FRC )、スフェロマックなどのコンパクトトーラス研究が各大学で盛んに行われてきた。 ST はこれらと近しい関係にあるため日本独自の研究が発展した。例えば、東大ではスフェロマックの合体で FRC を生成し、第二安定化 ST 配位を実現した。これは圧力が高くなるほど安定になると言う配位であり、究極の磁気閉じ込め配位と言われている。その他、 ST の基礎実験や、シミュレーション研究、超電導 ST 炉の設計などで世界的成果があげられている。また、日米協力により NSTX 共同研究にも参画している。しかし日本では未だ大学研究室内の研究にとどまり、英米との格差は極めて大きく、新時代に向けた研究体制の構築が急務となっている。

3. 調査検討項目

(1) ST における炉工学(炉設計、放射線遮蔽、超電導、ブランケット、経済性、環境適合性)

(2) ST におけるプラズマ壁相互作用(ダイバータ、周辺プラズマ、燃料供給)

(3) ST における運転制御(立ち上げ、加熱・電流駆動、自発電流、平衡、制御)

(4) ST におけるプラズマ閉じ込めの物理(熱・粒子輸送、 MHD 不安定性、緩和現象)

(5) ST 研究の現在の成果、将来の方向性と日本の研究体制

4. 予想される効果

これまでの日本の球状トカマク研究の問題は、大学の講座単位の研究が主体であるため、 特定のトピックスに偏りがちなことである。研究調査専門委員会が開かれることで、これまで交流の少なかった炉設計、炉工学、実験、理論、シミュレーションの研究者が、核融合発電炉実現に向けて障害となる問題意識を共有できる。それによって、新たな発想や新たな研究協力などの新たな研究の展開や、さらには核融合発電炉への展望も開けてくるものと期待される。また、 NSTX における日米協力などの国際協力体制をとる上でも本委員会は有効である。

5. 調査期間

平成 16 年( 2004 年)8月〜平成 19 年( 2007 年)7月 (3 年間 )

6. 委員会の構成

職名

氏名

所属

委員長

長山好夫

核融合科学研究所

会員

委員

岡野邦彦

電力中央研究所・原子力システム部

会員

委員

石川本雄

筑波大学・機能工学系

会員

委員

大西正視

関西大学・工学部

会員

委員

岡田成文

大阪大学・原子分子イオン制御理工学センター

会員

委員

桂井 誠

東京大学元教授

会員

委員

近藤義臣

群馬大学・工学部

会員

委員

時松宏治

地球環境産業技術研究機構

会員

委員

中村一男

九州大学・応用力学研究所

会員

委員

永田正義

兵庫県立大学・大学院工学研究科

会員

委員

花田和明

九州大学・炉心理工学研究センター

非会員

委員

平野洋一

産業技術総合研究所・電力エネルギー部門

会員

委員

前川孝

京都大学・大学院エネルギー科学研究科

非会員

幹事

小野 靖

東京大学・高温プラズマ研究センター

会員

幹事

高瀬雄一

東京大学・大学院新領域創成科学研究科

会員

幹事補

西尾 敏

日本原子力研究所・那珂研究所

入会申請中

その他、委員の公募を行います。

7. 活動予定

委員会 5回 / 年    幹事会 2回 / 年     見学会 1回 /

8. 成果報告の形態

電気学会技術報告、学会誌の特集等




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