電気技術史技術委員会設置趣意書
1.設置の趣意
1.1 現代的意義
我が国経済力の飛躍的進展に伴い、その産業技術のあり方は欧米で開発された技術の導入と改良を
主体とした従来のものから基礎研究段階からの自主開発を主体としたものへと転換し、我が国は真の
技術先進国として国際的に貢献することが求められている。技術先進国として我が国が今後取るべき
進路について的確な示唆を得る上で、その電気技術百年の歴史を振り返る事は、極めて有益でかつ
現代的意義を持つと思われる。即ち、我が国電気工学の百年間は日本近代化の百年でもあり、
その分析は、日本の工業が欧米のそれに追い付き、凌駕するに至った経緯を明らかにする。それは、
途上国にとって学ぶべきひとつのモデルであると共に、先進工業国にとっても反省の素材を提供する。
現代文明の展開に伴い近代技術のあり方が問われると予想される時代にあって、電気技術の
本質を十分踏まえてこれらに対処すべきことが、電気技術者自らが社会的責任を果たす上で、喫緊の
課題として求められている。電気技術史の調査・研究は、技術の本質を追求しつつ、その応用の社会的
適格性を評価することにも通じることから、その調査・研究はこの課題への対応を的確なものとなし得ると
考えられる。
1.2 学会の役割
学会は、産官学各分野の技術者が等しく協力し得る場であり、技術者自らが社会的責任を
果たす上で公正な立場を取りうる場でもある。電気関連諸学会の中にあって、電気技術の歴史の如き
全般的な課題に取り組む場として、電気学会は、最も相応しいものの一つである。
電気学会は、電気技術の発展と普及とを目的にしており、電気技術の歴史を調査・研究する
ことが、上記の如く電気技術者自らにとって必要であるのみならず、新しい時代に即したその普及を
図るうえでも有効であると考えられる。それゆえ、電気技術史は電気学会を中心として電気技術者
自らによって研究・調査されるべきである。また、電気技術の歴史は、電気技術の分野以外の人々とも
協力・交流して研究・調査されるのが望ましく、電気学会に電気技術史研究機関を常置して、電気学会が
国内外の協力・交流の母体となることが相応しい。
1.3 新時代の活動
1988年の電気学会は、その百周年を祝った。また現在、日本は従来の立場から脱して
国際社会に於て最先進技術国の役割を担おうとしており、また、技術者は新しい時代の中で自らの
社会的責任を果たすことを求められている。この時機に当たり、我々電気技術者は、我が国電気工学の
創成期から現在まで百年の歴史を振り返り、そのあり方を自ら明確に認識する必要がある。さらに、
これを以て他の分野・諸外国の人々の正しい理解を得つつ、今後、我々が進むべき方向を見極める
一助とすることは、誠に電気学会第二世紀という新時代に相応しい活動であると思われる、電気学会
百周年記念行事などを通じて、電気技術史に対する会員の関心もたかまりつつあるこの時機にこそ、
電気学会が、電気工学全般を扱う部門である基礎・材料・共通部門に『電気技術史技術委員会』を
設置するのが適切である。
2.設置の目的
設置される新技術委員会の目的は、次の通りである。
- 電気技術者による電気技術史研究調査の活発化
- 電気学会会員への電気技術史に関する情報・知識の提供、電気分野以外の技術者へさらに
一般社会へのこれら情報・知識の提供
- 日本の電気技術史に関する物件・文献資料の所在把握
- 日本の電気技術史の特質の解明
- 電気技術者の自己の存在の確認、および次世代の電気技術者となる若人の啓発
- 我が国電気技術史上の功労者の評価
- 電気技術史に関連する他学協会等との協力・交流・技術史家との交流
- 電気技術史に関連する国際交流
3.設置の効果
電気技術史技術委員会の新設によって、以下の効果が得られると期待される。
- 電気学会による電気技術史調査研究の中心ができ、今後どのように電気技術史研究を
行うべきかが明らかにされる。
- 電気学会が電気技術の調査研究を行っていることが会の内外に知られることにより、
電気学会会員の電気技術史への関心が高まるとともに、電気技術史上の物件・文書資料の保存
および所在の把握にも好影響が生じる。
- 日本の電気技術史の特質が解明され、日本産業史上で電気技術者が果たした役割が
明確になる。
- 電気技術が社会の中で果たす役割が、電気技術者自信においても一般社会においても
確認され、電気学会の社会における位置に好影響をもたらす。その結果、創造性と進取の気性に
富む若人が電気工学を志し自らのアイデンティティを確立するのを促す。
- 国内の諸学会・研究会および外国の電気学会の電気技術史研究調査活動と協力する
体制ができる。
- 以上を通じて、日本の電気技術が今後歩むべき方途についての有用な示唆が得られる。
4.活動領域
電気技術史技術委員会の活動の主な分野は、次の通りである。
- 電気技術史研究のすすめ方
- 日本の電気技術史に関する調査・研究
- 歴史から見た電気技術の位置と将来像、職業人としての電気技術者の自己確認
(アイデンティティの確認)、次世代の電気技術者の啓発
- 他学協会等・外国との電気技術史に関連する交流
5.予想される活動
- 技術委員会の開催(年4回)
- 幹事会の開催(年4回)
- 調査専門委員会の設置
日本の電気技術史に関する調査研究を個別具体的に実施するため下部組織として、調査専門
委員会を設置する。当面は次のような案のうちから1〜2委員会を発足させる。
- 電気技術史研究活動の現状に関する調査専門委員会(仮称、内外における電気技術史研究活動の
沿革と現状を調査し、電気技術史研究が今後において持つ意味を明らかにする)
- 電気工学教育の歴史に関する調査専門委員会(仮称、明治期における我が国電気工学教育の始めと
その後の拡大の歩みを調査し、次世代の電気技術者に求められるアイデンティティを検討する)
- 電気技術史データベース調査専門委員会(仮称、日本の電気技術史上の物件・文書資料の所在を
把握しデータベース化する可能性を検討する。)
- 電気技術国産化の歴史に関する調査専門委員会(仮称、電灯工業・電気機械工業・電気通信工業の
国産化の歩みを調査する)
- 研究会の開催
研究会テーマとしては、次のようなものが考えられる:“電気技術者による電気技術史研究の
意義/電気技術史に何を期待するか”,“電気技術史研究活動の現状とそのあり方”,“大学の
電気工学科の歩み”“,内外の電気博物館・電気文書館”,“日英米独仏の電気技術史比較”
- 講演会・見学会の開催(年12回)
講演会テーマとしては、上述研究会テーマ候補に関連したもののほか、他学協会関係者・技術
史家・経済史家・博物館関係者・企業の技術管理関係者・外国人関係者に専門テーマを依頼するものとする。
見学会としては、博物館・保存所・文書館が考えられる。
- 情報収集・交換・広布
内外のこの分野の研究調査活動に関する情報を積極的に収集するとともに、会員の希望に応えて
これらの情報を広布する。電気技術史に関する常置機関を電気学会が持つのは初めてであり、
電気技術史技術委員会は、できれば、この情報連絡センターとしてのサービスを行うこととする。
他の技術委員会や調査専門委員会からの技術史関係の問い合わせにも応える。
- 他学協会等との交流・国際交流
他の学協会等との交流・協力、および技術史家との交流に重点を置く。欧米先進国・発展途上国の
関係機関との交流にも力を入れる。
- 記録・顕彰等
電気技術史に関連する翻訳・出版・復刻・奨学等々
6.活動開始時期
平成2年4月〜