室蘭工業大学 情報電子工学系学科 電気電子工学コース
青柳 学 教授
電気の多くは光,熱,力など異なる物理量に変換して使用されています。その中で電気を動力に変える一般的なものは電磁力を用いた“モータ”ですが,電気から超音波振動への変換を経て動力に変換する研究を行っています。超音波は固体,液体,気体の3つの媒質で伝搬することができますが,ここでは固体中と気体中の超音波を利用した“動かす”技術として,“球面超音波モータ”と“近距離場音波浮揚搬送”の研究についてご紹介します。
金属などの弾性体(振動子)を振動させ,進行波や直交する2つ以上の振動を起こすことができます。複数の振動に時間的なずれを与えると楕円状の変位を作り出すことができ,接触した物体は回転または直線的に搬送されます。振動子は多くの振動形態を同時に励振させることができ,図1に示すように3組の振動モードを同時に励振すると3軸方向に回転させることが可能です。図2は円環状の振動子を基本として構成した球面超音波モータです。2つの振動子を用いた構成であり,中心部のロータが回転します。図3はロータを振動子内にはめ込んだ構造の球面超音波モータです。部品点数を大幅に減らすことができます。
通常のモータで3軸方向の動作を実現するには最低3つのモータが必要ですが,球面超音波モータは一つで実現します。減速機やブレーキなどの制動装置は不要で。すなわち,システム全体の構造が単純になり,軽量化が望めるようになります。宇宙機や惑星探査ロボットのアーム駆動やロボットの関節などへの応用が考えられます。
超音波振動する振動板上で軽く平坦な物体を図4に示すように浮揚させることができます。また,物体は振動板上からずれても元の位置に戻るので落下しません。振動板上の物体には図5に示すように音響放射圧によって浮揚力,さらに音響粘性流によって振動板上に保たれる保持力が発生しているからです。
図6に示すように振動板を複数個並べて隣り合う振動板の変位を大きくすると隣に移動します。つまり,各振動板の変位を調整することで自由に並べた振動板を乗り継いで物体を目的の振動板まで非接触で搬送できます。平面状に振動板を並べれば2次元搬送も可能です。触れると傷つきやすいものの搬送や非接触の検査・処理などに応用が考えられます。