プラズマ技術委員会設置趣意書
提出:桂井誠 (現)プラズマ研究専門会委員長
技術委員会の正式名称 :プラズマ技術委員会
予定される委員長名 :桂井誠(東京大学)
1.
設置の趣意
プラズマは、高温に加熱された物質が電離して生成される物質の第4状態であり、電子とイオンの集団が複雑に運動する系である。プラズマ技術の基盤となるプラズマの性質・挙動を研究することは、単に応用の拡大ばかりでなく、宇宙、天体、地球高層で起こっている物理現象を理解するためにも不可欠である。更に近年では、プラズマは単に電離気体、放電気体にとどまらず、大電流ビーム発生、荷電粒子トラップ、ダスト・粉体プラズマ結晶構造化など、電磁相互作用によって集団運動する系が広くプラズマの概念によって捉えられており、従来の枠を遥かに越えた広範な学術分野に関連する基礎的学問分野として研究が進められつつある。また、プラズマ中で起こる非線形現象を通しての準定常状態の出現は、自己組織化過程として捉えられ、宇宙の構造形成や生命体の進化にも共通する秩序形成をもたらす現象の典型である。
プラズマ技術は、1950年代後半まで、放電現象や天体現象などの基礎学問として捉えられてきた。また蛍光灯に代表されるような産業製品製造技術の基盤として現在の工学において重要な分野として捕らえられてきた。さらに制御核融合エネルギー開発の研究が国際的な枠組で始動して以後、その基礎分野としてさらなる発展がみられ、特に核融合研究が大型プロジェクトに進展するにともなって分野の拡大がみられた。一方、基礎学術として大学の教育・研究において、自然科学としての新たなパラダイムの確立、またプラズマプロセッシング,プラズマ化学など、高度産業技術への新たな応用の開拓の基盤としての発展にも期待が寄せられるようになった。このような学界の情勢と機運は、我が国に限らず国際的に共通のものであり、プラズマ理工学は今、一つの拡張期を迎えているといえる。
プラズマ技術の発展は産業分野において特に期待が大きい。特に、近年地球規模で問題にされている環境汚染物質の除去および制御にプラズマ技術の適用が期待され始めている。帯電したマクロな粒子集団であるダストプラズマとか粉体プラズマは、あらたな産業技術として基礎研究が開始されている。プラズマと生物との関わりについても興味ある現象が多々ある。
核融合エネルギー開発を目的とした高温プラズマの発生・閉じ込め研究においては、新規な着想に基づくプラズマ生成・閉じ込め装置が多数研究されており、同時にプラズマ加熱装置(中性粒子ビーム発生装置、高周波加熱装置)、プラズマ計測器(粒子エネルギー分析器、光学計測器、ビーム計測器)など周辺機器の開発が進められて、年々その様相は変化している。
核融合プラズマ技術においては現在、高温プラズマの閉じ込め機構に関する物理的な理解は未だ確立したとは言えず、実験則のみに依存した少数の大型実験プロジェクトによるだけでは確認できないような現象の理論解明、および広範なパラメタ空間での最適化の問題、など、幅広い基礎研究による支援が是非必要である。さらに長期的な視点に立てば、核融合プラズマの研究は、事実上無尽蔵の資源が存在するD-D反応、および中性子が関与しない真にクリーンなP-B11反応を用いる次世代の核融合炉心プラズマ開発を目指す研究など、多くの挑戦的課題をもつ。
このような世代を越えて引き継がれるべき長期的研究においては、基本的挙動を解明するための基礎研究・調査が重要であり、本技術委員会での研究・調査活動に対する期待は大きい。一般にプラズマ技術がカバーする範囲は大略以下のような分野である:
(1)
基礎プラズマ物理(2)
非線型・強結合プラズマ現象(3)
プラズマ数値解析・シミュレーション(4)
プラズマ計測とデーターの可視化(5)
コロナ・グロー・アーク・電磁流体流体プラズマ(6)
高密度・大電流ピンチプラズマ(7)
反応性プラズマ(8)
天体・宇宙プラズマ(9)
核融合プラズマ(10)
固体プラズマ(11)
ダスト・粉体プラズマ(12)
レーザープラズマ(13)
プラズマ表示技術(14)
プラズマ加速技術(15)
プラズマ光源・放射源技術(16)
プラズマ材料プロセッシング技術(17)
環境関連プラズマ技術(18)
医療 ・生物・農業関連プラズマ技術(19)
電磁流体・MHD技術(20)
核融合エネルギー関連プラズマ技術(21)
プラズマ・電磁流体発生・維持電源技術
この中で特に、本プラズマ技術委員会では、電離気体・放電プラズマの集団的運動が顕著に表われる諸現象・効果に主点をおいた理工学技術、具体的には、プラズマ集団現象の基礎学術、大電流パルスピンチプラズマ、核融合プラズマ、低密度プラズマのシースおよび振動・波動・乱流現象などに係わる基礎および応用技術の研究・調査活動に重点を置く。
このように物質科学、エネルギー工学、環境保全工学など21世紀に中心の一つとなる技術の開発に係る様々な局面で、プラズマ応用の基盤技術がブレイク・スルーの鍵を握っていることを考えると、プラズマ技術においては、基礎原理の解明から応用技術の開発までを視点に入れた研究・調査を進め、細分化した技術を一般学術へと高めることによって、その健全な発展がはかられることになると考えられる。
2.プラズマ技術委員会
設置の目的
以上のような背景の下で,次の三つの方向をその使命として追求する。
・ プラズマ技術を支えるプラズマ理工学の先端的学術研究と体系的調査研究
プラズマ理工学は、中〜高エネルギー状態における集団現象を扱う広範な自然科学・工学の基礎となる分野である。これまでも、ソリトンやカオスなどに代表されるプラズマ中で起こる準定常状態の自己組織化現象は、宇宙の構造形成や生命体の進化にも共通する集団現象として注目される。本技術委員会では、このような先端科学の研究・開発を先導する研究成果の発表を支援して、その基礎学術の体系化を目指した基礎研究・調査研究を実施する。
・ プラズマ技術の新たな産業技術としての展開の促進
プラズマ技術は、産業技術に関連して、(1) プラズマ応用機器の開発およびプラズマプロセッシング技術の開発、(2) プラズマ計測技術の開発、(3)核融合エネルギーの開発、を重要な課題としており、将来の科学技術の核となる分野である。本技術委員会では、これらをプラズマ理工学という共通の学術的基礎の上に捉え、技術革新のシーズとなる成果を得るために、既存の学問分野の枠を越えた組織的な調査・研究を行なって、その促進をはかる。
・ 他分野との協力および未来的・国際的視点に立った研究と調査
本技術委員会の設置は、現在及び将来の発展・拡大・変遷に対応できるプラズマに係る工学・技術を研究・調査すると共に、関連する分野と連携した活動をすることにより、プラズマの重要性と魅力を広く社会に訴え、世界をリードできる次世代の技術者を育成し、この分野の一層の発展に寄与することを目的とする。
ここで、特にプラズマ技術委員会を既存の放電技術委員会とは別に設立する背景について説明しておきたい。プラズマ技術は、学術としてはプラズマ理工学を基盤として21世紀の科学技術を支える電気・電子工学の重要な一学術分野である。プラズマの物理的特徴をキーワードで示せば、デバイ遮蔽、シース形成、プラズマ振動/波動、ピンチ効果、異常/乱流輸送現象、ダイナモ現象、磁気リコネクション現象、等であって、これらに代表されるような多様な集団性、自律性,巨視的強度非線型性に特徴があり、学術基盤もそこに置いている。この点でプラズマ技術は、いわゆる放電技術が、主に外部から印加された電圧、電界による電離効果に主点を置いた外因性から出発する立場と大きく異なっている。放電技術とプラズマ技術は、電離気体に関わる理工学においては車の両輪であって、両者を一体化して一輪にすることは学術面での基盤的混乱をもたらす恐れがある。放電技術の延長としてプラズマ技術を捕らえる見方もあるが、両者の本質は大きく異なっているので、両者が関連する工学の健全な発展にとっては、それぞれの基盤の違いを認識して別の技術委員会を設置して相補的関係を確立することが重要である。この点が本プラズマ技術委員会を放電技術委員会と独立に設置する主要な学術的背景である。しかし当然、互いに重なる分野もあり、共通の立場もあるから、両技術委員会が適切なる協力関係を保つことは大切である。
3.
予想される効果
プラズマ技術委員会の新設によって、以下の効果が得られると期待される。
(2)
国内、国外の関連他学協会との相互交流によるプラズマ技術の向上と発展(3)
プラズマ技術に関する電気学会会員への情報・知識の提供と社会への関連技術の広報・啓蒙活動
(4)
関連技術研究教育の活発化,および次世代の研究者・技術者・教育者の育成
4.
活動の範囲と活動内容
本技術委員会は、低温から高温、低密度から高密度、熱平衡から非熱平衡状態、定常から過渡状態、など、広範囲にわたるプラズマの学理追求を通して、関連学術分野の体系化とプラズマの広範な応用を開拓することを支援する。特に前述のように、本技術委員会では、電離全体の集団的運動が顕著に表われる諸現象・効果に主点をおいた理工学技術、具体的には、大電流パルスピンチプラズマ、核融合プラズマ、低密度プラズマのシースおよび振動・波動・乱流現象などに係わるものに主点を置いた研究・調査活動を行う。放電技術委員会と境界分野については積極的に共同研究・調査活動を促進する。
以上の内容を実現するために行うべきプラズマ技術委員会の活動は、次の通りである。
(1)
研究会等の開催(2)
各種調査専門委員会の設置と運営(3)
他学協会との交流、国際交流通信学会、IEEE/Tokyo-Chapter/Plasma Science 分科会
・ 海外:APS/DPP、IEEE/Plasma Science その他
5.
活動開始時期
平成11年(1999年)4月〜
6.
委員会の構成(案)
委員長 |
桂井 誠 |
(東京大学) |
副委員長 |
石井 彰三 |
(東京工業大学) |
第1号委員 |
秋津 哲也 |
(山梨大学) |
同 |
岩村 康弘 |
(三菱重工) |
同 |
犬竹 正明 |
(東北大学) |
同 |
岡田 成文 |
(大阪大学) |
同 |
大森 達夫 |
(三菱電機) |
同 |
上川路 徹 |
(東芝) |
同 |
中野俊樹 |
(防衛大) |
同 |
原田 信弘 |
(長岡技術大学) |
同 |
福政 修 |
(山口大学) |
同 |
松井 哲也 |
(日立製作所) |
同 |
渡辺 征夫 |
(九州大学) |
幹事 |
小野 茂 |
(武蔵工業大学) |
同 |
菅井 秀郎 |
(名古屋大学) |
幹事補佐 |
安岡 康一 |
(東京工業大学) |
7.
来年度発足予定(未だ検討段階)の調査専門委員会:全て仮称1999年度内に発足予定は以下のものである。
(2)
プラズマ型中性子源および多目的核融合プラズマ技術調査専門委員会
その他発足が検討されているものとしては以下のものがある。(放電技術委員会等、他技術委員会との共催もあり得る)
(1)
表面波型プロセスプラズマ技術調査専門委員会(2)
大電流ピンチプラズマ技術調査専門委員会(3)
反応性プラズマ計測技術調査専門委員会