電気学会マグネティックス技術委員会主催
ワークショップ「マグネティックスによるパワーエレクトロニクスの革新と協創」

開催報告とお礼

今回のワークショップでは、脱炭素に貢献する革新的なパワーエレクトロニクスを実現するための課題として、インダクタやトランスなどの磁気部品・磁性材料に焦点をあて、 パワーエレクトロニクスとマグネティックスの研究者が集い、1件の総論と10件のご講演をいただきました。異分野の研究者が時間を共有し、活発な議論が行われました。ワークショップ参加者は講演者を含め143名を数え、約半数が企業からのご参加でした。ワークショップで掲げた趣旨と同様の問題意識をお持ちの方々が産学の両方で沢山いらっしゃる証ではないかと思います。

パワーエレクトロニクスはパワーデバイスをコアに、受動素子、回路設計、実装、EMIなど裾野の広い技術で構成されており、革新技術の実現のためには異分野連携は必須です。今回のワークショップが今後の様々な連携のきっかけとなることを強く願っております。マグネティックス技術委員会としては、今回の取組みを契機に、産業応用部門との連携を一層進めていく所存です。

ワークショップにご参加いただきました皆様に厚く御礼申し上げますとともに、今後もよろしくお願いいたします。

2021年1月21日

マグネティックス技術委員会 委員長 佐藤敏郎

趣旨 

脱炭素社会の実現に向け、パワーエレクトロニクスの役割はこれまで以上に高まっており、とりわけ、基盤技術としてのパワーマグネティックスは益々重要になってくるだろう。本ワークショップでは、パワーエレクトロニクスに関わるマグネティックスの現状と将来を広く俯瞰するために、材料・デバイスの測定・解析・設計技術の視点から議論する。

運営組織

委員長:佐藤敏郎(信州大学)
企画担当:田島克文(秋田大学)、直江正幸(電磁研)、槌田雄二(大分大学)、小原学(明治大学)、佐藤佑樹(日本TI)、高村陽太(東京工業大学)
発起人:佐藤敏郎(信州大学)、山口正洋(東北大学)、清水敏久(都立大学)

主催:電気学会基礎・材料・共通部門マグネティックス技術委員会
共催:IEEE Magnetics Society MAG-33 Shin-etsu chapter
協賛

  ※(略称)A部門:基礎・材料・共通部門, D部門:産業応用部門

開催日時/形式/参加費/参加申込

プログラム
10:00  開会のあいさつ A部門 マグネティックス技術委員会委員長  佐藤敏郎
(信州大学)
10:00 総論 高密度エネルギー変換システムのための磁気応用技術調査専門委員会委員長  田島克文
(秋田大学)
セッション1 (講演時間;30分、質疑;10分) 座長 佐藤敏郎(信州大学)    
10:10~10:50 Commercialization efforts of a Wafer Level Magnetics technology platform
(本講演は英語です)
Trifon Liacopolos
(EnaChip, USA) 
  Historically wafer level magnetics that were pursued for fully integrated voltage regulators are operating at very high switching frequencies and include passives components with air-core or very thin film sputtered laminated cores. More recently a wide spectrum of market applications requires increased magnetic density components i.e. high inductance per volume and higher values of operating current i.e. low DC resistance, and high flux density core capabilities. In this presentation we will discuss a groundbreaking fabrication method that delivers multilayer core laminations with a use of a single mask and fast deposition electroplating techniques. An innovative method that electrodeposits consecutively multi-core laminations of an amorphous magnetic alloy capable to operate at frequencies up to 30MHz and the integration of very thick electroplated copper, allow for first time successful commercialization of Power Supply on Chip and a platform expansion to other wafer level magnetic applications. This post-CMOS “Back-End-Of-Line” compatible process is independent of the “Front-End-Of-Line” foundries and IC technology nodes allowing for multiple manufacturing and assembly options including embedded solutions, chiplets and even monolithic PwrSoC integration.

10:50~11:30 100MHz帯POL電源用CIP球形粉末コンポジットインダクタの試作 曽根原誠
(信州大学) 
  GaNやSiCといった第二世代パワー半導体素子が普及し始め、POL電源などの各種電源のスイッチング周波数がさらに高周波化されつつある。依然として、高周波化に伴う電源用磁気部品の低損失化が課題となっている中で、発表者らは金属磁性微粒子コンポジットを鉄心とする低損失な高周波用鉄心材料の開発を進めている。本講演では、CIP球形粉末コンポジットを鉄心とし、100MHz帯での利用を目指すPOL電源用プレーナインダクタの開発状況について述べる。

11:30~12:10 半導体スイッチングデバイスにおける不要電波の発生と磁性材料による抑制 永田 真
(神戸大学) 
  電気自動車やドローンに代表される自律移動体の技術革新において、電源装置、通信装置、制御装置など多くの機能を担う半導体集積回路(IC)チップのスイッチング動作による不要電波の発生(エミッション)と通信機能への干渉(イミュニティ)は解決すべき重要課題である。本講演では、CMOS素子や化合物素子を用いた半導体スイッチングデバイスにおける広帯域な不要電波発生の実験評価、無線通信システムレベル・シミュレーションによるLTEや5G等の移動通信性能を指標とした不要電波干渉の評価、さらに、磁性材料によるノイズ低減構造の導入とその効果の評価など、不要電波の理解と対策に向けた研究の取組みと成果について紹介する。

12:10~13:00 休憩   
セッション2 (講演時間;30分、質疑;10分) 座長 高村陽太(東京工業大学)    
13:00~13:40 次世代パワーエレクトロニクスを革新する高周波・大容量対応パワーマグネティックス応用技術 
〜次世代自動車用磁気部品応用技術を例に〜 
山本真義
(名古屋大学) 
  本講演ではまず、今後大きく市場が立ち上がる次世代電動車両用パワーエレクトロニクス機器の分類と、そこに使用されるパワーマグネティックス技術の位置づけについて解説する。さらに、その車載用パワーエレクトロニクス機器において、パワー系補助部(ゲート駆動回路用電源等)においては数MHz、パワーライン上においては500kHz以上、というパワエレ機器駆動周波数上限を設定した後、そこに使用される磁気部品におけるコア材料、配線構造、コアギャップ対応技術、それらの冷却技術とその融合システム技術について、学術界の提案と各完成車メーカ機器の分解解析結果の双方の視点から、次世代車載応用へ向けた議論を展開する。
※「講演資料をご希望の場合はこちらをご参照ください(ダウンロードできます)」とのメッセージをいただいておりますのでご案内いたします。

13:40~14:20 次世代パワーエレクトロニクス回路への適用を想定したコモンモードインダクタ周波数特性改善 和田圭二
(東京都立大学) 
  SiCやGaNを用いた次世代パワー半導体デバイスの実用化に伴い,電力変換器が発生する電磁障害(EMI)に影響の与える周波数帯域が高周波化・広帯域化する.このためEMIフィルタの構成要素のひとつであるコモンモードインダクタには,数百kHzから数十MHz以上までの幅広い周波数帯域に渡り,大きなインピーダンスを有することが要求される.そこで,本講演ではMnZnフェライトを用いたコモンモードインダクタンタの周波数特性改善手法について述べる。

14:20~15:00 任意の駆動条件において適用可能なパワーインダクタの等価回路モデリング手法 佐藤佑樹
(日本テキサスインスツルメンツ) 
  近年、磁性材料や磁性素子の損失モデルの開発は非常に盛んにおこなわれているが、ほとんどのモデルにおいて磁性材料の特性や磁性素子の構造が既知であることが前提である。また、それらのほとんどの手法は受動部品メーカ等から販売されている磁性部品に適用することが非常に難しい。本講演では、実際のパワーインダクタの全損失から任意の駆動条件に対応した等価回路を作成するモデリング手法を紹介する。また、磁性コアを使用したトランス内蔵の小型絶縁型DC-DC電源の開発状況に関しても簡単に紹介する。

15:00~15:40 共振法による磁性材料の高周波・高磁束密度での損失測定 〇上原裕二
(磁気デバイス研究所)
河野健二、佐藤佑樹
(日本テキサスインスツルメント)  
  パワーエレクトロニクスの分野では,デバイスの小型化・高周波化が進められており、使用される磁性材料の高周波での損失の評価が重要性を増している。本講演では新規測定手法である共振法による磁性材料の高周波・高磁束密度での損失測定について述べる。共振法とは従来の2コイル法に共振コンデンサを付加することで測定系の寄生インダクタンスの影響を低減し高周波での測定を可能にする手法である。この測定法を圧粉材料からなるトロイダルコアに適用した結果、数10MHzまでの損失測定が可能となった。さらに励磁コイルに間欠的に通電することで高磁束密度での測定も可能であることが分かった。

15:40~16:00 休憩    
セッション3 (講演時間;30分、質疑;10分) 座長 佐藤佑樹(日本テキサスインスツルメンツ)
16:00~16:40 パワーエレクトロニクス機器の実践回路設計とインダクタでの電力損失の発生を探る解析 細谷達也
(村田製作所)  
  パワーエレクトロニクスでは、「磁気を制する者はパワエレを制す」と言われ、電力磁気部品の最適な活用は難易度が高い。例えば、部品でのインダクタは、正弦波電圧で励磁して評価し、コンバータでのインダクタは、方形波電圧で励磁して動作させる。ミクロ視点の磁気とマクロ視点のパワエレには壁があり、高度な技術融合が革新への鍵となる。  本講演では、エネルギーマネジメントシステムの実践回路設計において、コンバータの電力損失を分析し、インダクタの鉄損は、開発した方形波鉄損算出法とスタインメッツ実験法を比較して実用技術を考察する。鉄損や銅損は、電力損失の発生メカニズムについて磁界解析により電流や磁束を可視化して解説する。

16:40~17:20 磁界解析への適用を考慮した各種鉄芯材料の磁気特性評価 藤原耕二
(同志社大学) 
  昨年10月,英政府がガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止すると発表したことからもわかるように,今後,機器の電動化および高効率化に拍車が掛かることは確実である.電動化は,自動車や電車,フォークリフトなどのような電動車両だけでなく,航空機でも検討されている.電動車両においては主機モータの損失低減が重要で,それを実現するためには,鉄芯を構成する電磁鋼板の磁気特性の把握が必須である.さらに,高周波駆動される制御回路に用いられるリアクトルの実駆動条件下での磁気特性評価も必要となる.ここでは,磁界の数値シミュレーションに利用することを念頭に置いた磁性材料の磁気特性評価について紹介する.

17:20~18:00 磁気回路法に基づくヒステリシスモデリング技術 中村健二
(東北大学) 
  パワーエレクトロニクス技術を応用した電力変換・制御装置の小型高出力・高効率化には,一般に電力用半導体デバイスの高性能化や,回路方式,制御方式の最適化が有効であるが,最近ではトランスやリアクトル等も含めたシステム全体の高性能化が求められている。
このような磁気デバイスを含むシステムの高性能化には,電気系・制御系・磁気系を統合した解析・設計が必要不可欠であるが,磁気デバイスの非線形性およびヒステリシス特性まで考慮した解析・設計手法は未だ確立されていない。本講演では,磁気回路法に基づくヒステリシスモデリングの最新技術について述べるとともに,PWM励磁時のマイナーループや直流偏磁時の非対称ループの算定結果などについて紹介する。

18:00 閉会のあいさつ D部門 半導体電力変換技術委員会委員長  船渡寛人
(宇都宮大学)

問合先

高村陽太(マグネティックス技術委員会幹事補佐) 連絡先mag-workshop@mem.iee.or.jp

※マグネティックス技術委員会全般に関するお問合せには、下記の「お問合せ・ご連絡」からのリンクをご利用ください。」