平素から誘電・絶縁材料技術委員会の活動にご理解とご協力をたまわり、厚く御礼申し上げます。当技術委員会では、毎年、研究会、セミナーなどを企画しておりますが、中でも電気電子絶縁材料システムシンポジウムは、当該分野の研究者・技術者が一堂に会して議論する、最も重要な行事と位置づけて注力しております。
今年度の当シンポジウムは、前身の電気絶縁材料シンポジウムから数えて、第47回目に相当します。皆様もご存知のように、本シンポジウムは昭和43年(1968年)に第1回電気絶縁材料シンポジウムとして開催されました。当時は電気学会電気材料技術委員会のもとで活動していた絶縁材料関係の専門委員会である、絶縁材料耐熱性試験法常置委員会、絶縁材料コロナ劣化常置委員会、絶縁材料トリーイング調査委員会、絶縁材料導電特性研究委員会の4委員会が協力して開催されました。現在、米国にて毎年開催されている国際会議CEIDPのルーツであるポコノ会議に参加した日本のこの分野の先駆者たちが、日本でもこの分野の学術研究・技術開発の最先端の議論を行いたいという強い願いを具現化した会議でした。当時の先駆者たちの先見性とバイタリティーが実現した会議であると言えるでしょう。昭和46年(1971年)には電気学会に絶縁材料常置専門委員会が設置され、第4回シンポジウムの開催母体となり、現在に近い形が出来ました。今から21年前の平成7年(1995年)には、このシンポジウムの国際版である第1回ISEIM(兼第27回シンポジウム)が東京で開催され、平成11年(1999年)の第31回シンポジウムからは、名称が現在の電気電子絶縁材料システムシンポジウムに変更され、対象分野の更なる拡大が明確に示されました。
このような歴史的背景のもと、当技術委員会では、誘電・絶縁材料技術分野の発展に貢献された方々に対して、先駆者の代表者でもある犬石先生、家田先生、矢作先生のお名前を冠した賞を授与し、顕彰する活動を行っております。このうち犬石賞はISEIMにおいて表彰が行われ、学術貢献賞の家田賞、技術貢献賞の矢作賞は国内で開催されるシンポジウムで表彰が行われることになっております。今回、家田賞は九州工業大学の匹田先生が、矢作賞は元日立電線の杣氏が、それぞれ受賞されることになりました。各受賞者には、シンポジウムでご講演をお願いすることになっております。これは技術開発のご苦労と成果を若い世代に伝えていただきたいという思いによるものです。ご期待ください。
さて当委員会ではこれまでも、このシンポジウムを魅力的なものにするために、独自の企画を実施するなどして尽力してまいりました。豊橋で開催された第44回のシンポジウムでは計測や診断のデモンストレーションを行い、第45回に相当する新潟のISEIMでは空間電荷計測に関するデモンストレーションを行いました。これらは、若手研究者に現場での作業を理解していただくことで、研究の重要性を再認識していただくことを目的としておりました。今回は、シンポジウム自体ではこのようなデモンストレーションを行いませんが、シンポジウムに続いて行われる若手セミナーにおいて、分子軌道法を用いた計算機シミュレーションの、絶縁材料への応用に関する実習を実施する予定です。これは若手の研究者に、絶縁材料設計のツールとしての計算機科学を応用する手法を身につけていただき、新たな材料開発に、意欲的に取り組んでいただくことにより、分野全体を活性化することを目的としております。また、シンポジウムでは、計算機科学の応用をテーマにした特別セッションも実施いたします。
さらに、もうおなじみになったかもしれませんが、若年層を中心とした研究者が相互に触発しあうことを目的としたMutual Visiting方式のポスターセッションに加え、企業での研究開発を特に若手研究者に知っていただくための展示発表セッション(SSセッション)も、これまで同様実施いたします。今回もSSセッションにご協力いただきました多くのご関係各位に厚く御礼を申し上げます。
また、一昨年度のISEIMより開始した、日韓交流の活性化のための若手研究者交換プログラムも実施します。これは、両国内の会議で優秀発表賞を受賞した学生を、双方の会議に招待し、発表を行ってもらうという企画です。今年も、まず韓国の会議で選ばれた学生を今回のシンポジウムに招待しました。また、秋ごろに行われる予定の韓国の学会に派遣する日本側の代表者の選出をこのシンポジウムで選出します。このような交流を皮切りに、今後は、当技術委員会の活動をグローバル化させたいと考えております。
話は変わりますが、先日、フランスのモンペリエ大学で行われた、ICD(International Conference on Dielectrics)という国際会議に参加してきました。この会議は3年ごとに欧州で開催されていたICSD(Inter- national Conference on Solid Dielectrics)を、ICDL(International Conference on Dielectric Liquids)と統合して行うことを狙って名称変更されました。(ただし、この目論見は失敗に終わり、2017年にはICDLが英国のマンチェスターで開催されます。)会議では、欧州での直流高電圧(HVDC)送電網開発のプロジェクトを背景に活発に研究開発を行っている状況を身近に感じることができましたが、その理論的もしくは実験的な基礎が、日本の研究者の研究が基礎となっていることを認識しました。例えば、ベース材料のエポキシにナノサイズの無機フィラーを添加して、直流高電圧特性を高めることを狙った研究が多く発表されていましたが、これは早稲田大学の田中祀捷教授が提唱したマルチコアモデルや、東芝の今井氏が行った材料開発の研究の延長上にありますし、直流送電用電力ケーブルの絶縁材料の実証試験に関する研究に関しては、武蔵工大(現東京都市大)の高田達雄教授が開発したPEA法が研究のベースとなっており、実験装置としては豊橋技科大の穂積直裕教授が開発したケーブル形状試料用のPEA測定装置がそのまま使用されています。他にも計算機科学の応用や、部分放電診断・計測法など、日本の研究者がパイオニアとなっている研究が多く見られました。しかし日本の研究者により、ICDで発表された研究の件数は決して多くありません。これは日本で行われている先端的な研究についての、研究者自身の評価の低さ、さらにこのような先端的な研究を大学などの研究者とともに行っている企業の、実際の材料開発への意欲やビジネス展望に関する世界規模の認識の欠如などが原因であると愚考しております。このような状況を打破するためにも、当シンポジウムでの活発な意見交換は不可欠であると考えます。また、来年度は当シンポジウムの国際版である2017 ISEIM(8th International Symposium on Electrical Insu- lating Materials)が、9月12日から4日にわたって、豊橋の豊橋商工会議所において開催される予定です。今回のシンポジウムで皆様が発表する研究が、シンポジウムにおける議論を通してより洗練され、来年度のISEIMにおいて世界に紹介され、認識されるという例が多数生じることを期待しております。
最後になりましたが、今回のシンポジウムの開催に多大なご協力を頂きました、岐阜高専の所先生を始めとする現地実行委員の方々、誘電絶縁技術委員会幹事団、1号委員、2号委員の方々に心よりお礼を申し上げ、私の挨拶とさせていただきます。
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